2003年【長月号】
vol.35

 宇美八幡宮の境内、湯方社(ゆのかたしゃ)の傍には子供の名と性別 ・生年月日を書いた小石がたくさん積まれています。湯方様は、神功皇后(じんぐうこうごう)がこの地で応神天皇をお生みになった時の功績で、「日本助産婦の祖神」として祀られていると伝えられています。無事に赤ちゃんが生まれますようにと、ここに供えられた子安の石を持ち帰り、出産の暁には感謝の意を込めて、新たに自分の子の名を書いた子安の石をここに納めるのです。
 境内の産湯の水は、応神天皇の産湯に使った水と伝えられ、石で囲われた美しい泉は、妊婦に飲ませると難産を逃れると言い伝えられています。その他、衣掛(きぬ かけ)の森・湯蓋(ゆぶた)の森・子安の木(槐〔えんじゅ〕)・胞衣(えむ)浦等々、宇美八幡宮には神功皇后の出産と安産にまつわる伝説やゆかりのものが豊富に伝えられていて、今でもそれにあやかろうとする人々の参拝が絶えません。
 医学がすすんだ今日でも、お産は女の一大事。新しい生命の誕生という喜びと裏腹にお産に対する不安は拭えず、昔ながらのしきたりが今も行われるのです。
 妊娠五ヶ月の戌の日、岩田帯を締めます。博多ではこのことを「帯し祝い」といいます。岩田帯は里方から贈られた紅白の晒(さらし)を四つ折にして腹帯にするものです。里方から帯を贈るときは、一反ずつ紅白の晒の上に鰹節(かつおぶし)を「生(なま)のくさけ」として載せて来るので、それを三方に載せ「帯し祝い」の当日まで飾っておきます。
 現在はガードル式の物が出回り、長居帯をグルグル巻くような面 倒なことはあまりされなくなってきました。それでも、寺社で求める岩田帯は安産祈願を施したり、「祈願文」が書かれていたりしますので、親たちは、娘の安産を願って形式的にでも贈るようです。
 帯をし終わると、赤飯・なます・平物・吸物程度で簡単な内輪の宴を開き、親戚 へは重箱に詰めた赤飯に南天の葉と塩の包みを添えて配ります。
 南天は「難転」に通じ、ここにも元気な赤ちゃんの誕生を祈る気持ちが込められています。


湯方神社(宇美八幡宮内)
【月見と団子】
 昼間の暑気がのこる九月中頃の夜、月の輝く「仲秋の名月」がやってきます。そこで今年はちょっと手をかけて、月見の供え物を準備することにしました。
 秋の草花には、萩、すすき、桔梗、藤袴をチョイスし、ちょいと大人っぽい取り合わせで生けてみます。毎年お店で買っていた団子も、今年は本を読みながらの挑戦です。まず、上さん粉に水を加え、耳たぶよりほんのちょっと硬めにこねます。子供の頃に作って以来の感触を頼りにこねるのです。白くなった顔や服をよそに、いい按配の種を丸め(いかにも手作りといった風に)、しゅんしゅん沸く蒸し器に入れます。
 数分後、なんともいえない色艶をつけた団子たちのお目見えです。十二個、もしくは十三個と、一年の「月」の数だけ山に盛り、お砂糖をかけて甘くしておきます。
 供え物が出来たら、お月様が見える場所にしつらえます。美酒を嗜み、虫の音や肌に染みる風を感じたら、今年の仲秋もいよいよ満ちる頃となります。

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