2003年【葉月号】
vol.34

 黄道吉日(こうどうきちにち)の夜、花嫁を待つ新郎の家はきれいに掃き清められ、軒には幕が張られ、座敷には屏風を立て毛氈(もうせ)が敷かれます。花嫁は実家を出て、新郎の家の近くに用意された中宿(なかやど)で化粧直しをし、新郎方からの迎えに導かれて、両親、兄弟、親戚 と共に新郎の家におこし入れです。  
 新郎の家に着くと、座敷に新郎・新婦、仲人、両家の両親がコの字型に座ります。まず新郎の姉妹か親戚 の娘が「のし出し」の作法をし、次に天目台にのせたお茶と菓子が出されます。そしていよいよ三々九度です。祝いの謡(うたい)が隣室で謡われる中、雄蝶雌蝶(おちょうめちょう)の男の子、女の子が新婦↓新郎へと、三つ組の杯(さかづき)を回し、お銚子の酒を三献ずつ三回つぎます。固めの三々九度が終わると、仲人は新婦がかぶっている綿帽子を脱がせます。次にふたつきの雑煮椀に紅白の小餅が入った「嫁御雑煮(よめごぞうに)」が出されます。親子の契りの杯は「千鳥がけ」というやり方で、新郎の杯を新婦の両親に、新婦の杯を新郎の両親に交差して渡します。
 固めの杯と親子杯がすむと「本客(ほんきゃく)」です。嫁方の両親・兄弟・親戚 が本客となり、新郎側は全員接待役です。色物の振り袖にお色直しをした新婦が、三方にのしを載せ「のし出し」の作法をします。これがすむと本膳が出されます。本膳についている引き杯に新婦が冷酒をつぎ、本膳回りの軽い食事がすむと、二の膳でたっぷりの料理とお酒をいただき、おみやげに細工蒲鉾の「しゅんかん(春冠)」をもらって帰ります。これらほとんどの料理は家で作られるのです。博多のごりょんさんの器量 はたいしたものです。  
 二、三日すぎて披露宴が始まります。近所の人、取引先、友達等々グループに分けて何度もやり、「どうぞよろしく」とお酌をして回ります。披露宴では親戚 や町内・知人の年頃の娘が十数人、振り袖を着て給仕します。博多ならではの華やかな光景ですが、こうしたシステムも作法の体験学習と結婚のチャンスにつながる生活の知恵だといえましょう。  
 現代人には少々「面倒だ」と感じられるでしょうが、親戚・近所つきあいが今より濃密だった昔、新しい家族が早く馴染むようにと、こんな手間暇がかけられたのです。


「しゅんかん(春冠)」(西門蒲鉾本店様より写真提供)
【竹 馬】
 こどもの頃の遊びで、うまくなるととてもうれしかったものの一つに竹馬があります。前のめりになったり、横にぶれてみたり、「馬」というほどのものですから、乗りこなすコツを掴むまでには相当苦労した記憶があります。
 竹馬遊びの源は中国で、日本には平安末期に男子の遊びとしてすでに広まっていたといいます。こどもの頃は時を越えた「遊び」に興じていたということになるのですね。なんとも奥の深い話です。
 シンプルで深く考えなくてもよいのに、高度なバランス感覚を要する竹馬は、作りはいたって簡単で、手に入れるのも簡単です。そんなお手軽な遊び道具ですが、これにうまく乗れたときの気持ちよさや、ちょっとした優越感は格別 なもの。それに、いつもよりほんの少し高くなる新鮮な視界は、素直な子供にはたまらなく刺激的だったように思います。
 こころとからだを元気にしてくれる竹馬には、一千年来の豊かな文化をみることができるとは言い過ぎでしょうか。

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