創業百十年に寄せて

石村萬盛堂は明治三十八年十二月創業以来齢を重ね、おかげ様で今年百十周年を迎えることとなりました。大東亜戦争の一時期の休業はあったとはいえ百十年の長きに渉って商いを継続できたことは、先人達のたゆまぬ菓子作りへの情熱と創意工夫があったこと、何よりも郷土の皆様の変わらぬご愛顧があったお蔭様であると心から感謝申し上げる次第でございます。

創業者石村善太郎翁の手になる“鶴乃子”は時代を超えて皆様に愛され、今日でも博多の土産菓子として確固たる地位を築いていますが、これこそ創業者の思いと創意工夫と後の世代につながる商いの指針とが込められた逸品であろうと思います。現在の経営(洋菓子部門、ホワイトデー、マシュマロのトップブランド等々)のすべての淵源が“鶴乃子”にあるのです。

また、弊社には経営の根幹となる所謂「言葉資源」とも言うべきことばがいくつも残されています。例えば、「人が角い物なら自分は丸い物を作る」。これは、人の真似はしない、独創性を重んじるということを教える言葉であり、正に鶴乃子の卵型の箱は創業者の独創的発想によるものです。
「花持ちし 人より避くる 小径かな」。自分は立派な花を持っている。だからこそ細い道で人と相対する時にはそっと道をあけてあげる。自信と謙譲、一見相矛盾する心情を内的に融合して人と接していくことを教えてくれています。

「競争はするな、勉強はせよ」。人と争って勝った、負けたにこだわるのではなく、ひたすら自分を磨くことに努める大切さを説いている言葉です。「鶴乃子」と言葉資源に込められた思いを大切にしながら、百十周年が、百五十年、二百年とつながっていくことを切に念いて止みません。

石村萬盛堂 石村僐悟



百年菓子